体を巡る甘い毒

好きになったアイドルのこと

満開の桜の下で毒を飲み込んだ話

 

 

2021年4月3日、中丸雄一さんに堕ちたその日は満開の桜に包まれていました。

大切なこの日を記録しておこうと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手で凝った演出好きでしょう?」

 

 

そう言って友人は15周年の貴重なライブに誘ってくれた。特効、レーザー、炎に水。その魅力的な単語の羅列に食い気味で頼んだ。

 

 

 

 

 

 

シャトルバスの中でLINEを開き、演出をまとめてくれたファイルを見返す。送られてきてから幾度となく見返したファイル。今日ようやく目の当たりにできるかと思うと楽しみで仕方がなかった。遠足に行く子供のような気分でバスに揺られること約50分、セキスイハイムスーパーアリーナに到着した。

 

 

 

チケットを発券し、席に着く。天井を突き抜けるほどの水柱が立ち、火柱が燃え上がるという中央のステージがよく見えた。その上には、亀梨くんのソロ曲でスモークを焚く装置。視線を移すと、花道を囲うように降りてくる蛍光灯がずらりと並んでいる。

 

セットを見て静かにはしゃいでいたところ、KAT-TUNを迎える手拍子が鳴る。

 

 

やっとだ。待ちに待ったライブが始まる。

 

 

 

 

 

映像が流れ、KAT-TUNの文字が浮かび上がる。

 

ブロックを蹴り飛ばして上田くん、幕が落下して中丸くん、スモークが焚かれ亀梨くんが姿を現した。

 

 

 

聴きなじみのあるメロディーが流れ、ペンライトの海が一斉に波打つ。

衣装をたなびかせてステージに立つ3人は、曲ごとに纏う雰囲気を変えていく。これほど壮大な特効の中、燦然と輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

様子がおかしくなったのはいつからだろう____。

よく覚えていない。気づいたら。いつの間にか。

 

 

 

 

 

 

 

テレビで見る中丸くんと同じ顔をしたその人は、伏し目がちに透き通る声で言葉を音にのせる。かと思えば力強い視線を向けがなる。表情一つ変えず鞭のように舞う。

 

 

 

惹き込まれて、目が離せなかった。

あれだけ楽しみにしていた演出が、目の前で目まぐるしく繰り広げられているというのに。

 

 

 

 

 

 

私の視線は中丸くんに捕らわれたまま時間が過ぎていく。噴水の奥に隠れて見えない彼を透明な柱のわずかな隙間から追いかける。3人の溶けあった声の中からその声を探す。

 

 

 

毒となった魅力に脳を侵されたようだった。情報を何一つ吸収できない。すべて抜けていく。

 

 

見えているのに、見えない。

 

聞こえているのに、聞こえない。

 

 

 

記憶に残せと脳に言い聞かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

はたらかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

視覚情報、聴覚情報、何でもいい。何か持って帰れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

はたらかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

文字情報でいいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

拒まれる。

 

 

 

 

 

 

 

これほどまでにいうことを聞かないことがあったか。

意識と体が分裂するというのはこういうことかと思い知らされた。コントローラーのいうことを聞かなくなったラジコンのようだ。制御の利かなくなったラジコンは無我夢中で標的を追いかけている。使い物にならないコントローラーを投げ捨て回収しようとするが、手が届かない。電池が切れるのを待つしかなかった。絶えず浴びせられる魅力で充電し続けるラジコンはいつになっても止まってくれない_____。

 

 

 

2時間のライブ。脳は何一つ記憶してはくれなかった。

 

 

家に帰っても余韻は抜けず、その日は何もせずにベッドに潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、テレビのチャンネルをいつものようにシューイチに合わせた。

 

何食わぬ顔でそこにいる。ヒデさんに声を掛けられコメントしている。まじっすかでOP動画を楽しそうに作っている。何も変わらない、いつも通りの日曜の朝。

 

違うのは私だけ。

 

呆然としているうちにニノさんに変わっていた。

 

 

加速するラジコンは、寝ている間に中丸くんの情報を入れるスペースを勝手に作っていたらしい。夢中で画面を見続けた。宮城公演のレポを漁る。「#中丸雄一」で調べる。スクロールするだけ情報が入ってくる。手を止めろと警鐘が鳴り響く____。

 

 

 

他のことをしようとしたけれど、手につかない。朝100%だった充電がほとんど無くなっていた。頭の中から1秒たりとも消えてくれない。きっと今この気持ちを殺したところで抱えきれないほど大きくなってしまう。そんな予感がして、自分の意思に従うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に生まれた火種はあっという間に燃え広がり大輪の花を咲かせてしまった。

 

藤棚から降り注ぐ光のような歌声に包まれたこの日、甘美な毒を飲んだ。